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つぶや記 35 
  
望郷 木暮実千代

   超後期高齢者のわたくしなどは、船橋聖一原作の映画『木石』に、お嬢さん役で出演した木暮実千代の衝撃的魅力が、脳裏に刻み込まれています。もっとも昭和15年に出来たこの映画を観たのは終戦直後のリバイバルでした。そして次に観た木暮実千代主演の映画は、彼女がバンプ役で登場する作品でしたが、どうしても題を思い出せない。原作がモーパサンの出世作『脂肪の塊』を翻案したことだけはしっかり覚えています。映画は終戦直後の満州を舞台にしており、黒いストッキングの木暮が、夕陽を背にして仁王立ちした鮮烈なシーンが忘れられません。それは『木石』のなかの彼女の印象と、あまりに違いすぎて戸惑ったことでしたが、どちらもこの女優の魅力であることはたしかです。
   ところで、昭和30年ごろ、たしかNHKの「私の秘密」という番組で、「木暮さんのふるさとは下関でしたね」というアナウンサーの問いに、「いいえ、わたし東京です」と彼女が答えるのを聞いたときの衝撃も忘れられません。
   下関市彦島で生まれ、梅光女学院卒業という木暮実千代の経歴を知っている者にとっては許せない女優の嘘でした。以来わたくしは、この人を同郷人のリストからはずしてしまったのですが、木暮さんの晩年の下関にたいする望郷の思いや、その生き方を知ったこのごろになって、自分の狭量を反省するようになりました。今は下関出身の大女優木暮実千代を顕彰しようという活動に、いささかも背をむけるつもりはありません。そう心に決めた今は、ひたすらなつかしい木暮さんであります。田中絹代ぶんか館も、スペースをあけて、実千代さんをお迎えすることを考えなければいけませんね。                                                                                                                (古川 薫)

 

 

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