名誉館長のつぶや記
名誉館長のつぶや記255 相撲武士道
つぶや記 255
相撲武士道
この稿が載るころにはやや旧聞に属することになるかもしれませんが、大相撲春場所の話題です。終わってからしばらくのあいだ「面白い千秋楽だったね」という会話が聞かれたのもめずらしいことでした。
とにかく日本人横綱は貴乃花以来22年ぶり8人目「稀勢の里」優勝に沸いた大相撲だったので、新しく学んだこともあります。
「まるでモンゴル相撲じゃないか」というのが、モンゴル出身力士の活躍を見る日本人の嘆きの声だったのは間違いでした。
出身国の違う横綱の取り組みだからこそ、あれだけの興奮に沸いたのです。「相撲は日本の国技だ」などと言わず、民族・人種を超えた人間の楽しみとすればよいのです。
などと言いながら、わたくしなどかなりな偏見をもって相撲を見ている-。この春場所を見て反省することがありました。
琴奨菊を変り身で投げ捨てた照ノ富士の戦いぶりにブーイングが起こりました。稀勢の里の怪我をめがけるように見えた鶴竜の戦いぶりにも眉をひそめた人が少なくありませんでした。
「やはりモンゴルは武士道をわきまえていないな。これも文化の違いか」とわたくしは胸のなかでつぶやきました。
そして直接対決で本割、決定戦とも照ノ富士に勝って逆転優勝した稀勢の里の大奮闘に掌が痛くなるほどの拍手を送ったのでした。
しかしこのときの照ノ富士の戦いぶりには、武士の情けを見た思いがありました。異論もあるでしょうが、わたくしはたしかにモンゴル人の彼に武士道を確認したのです。稀勢の里の次の横綱は照ノ富士です。モンゴル武士道に拍手を送ります。
なお下関出身の豊響が十両優勝を果たしました。来場所は幕内ですね。活躍を祈ります。
(古川 薫)