名誉館長のつぶや記

名誉館長のつぶや記270 年賀状のこと

つぶや記 270
  年賀状のこと

  11月に入ると気の早いところでは、クリスマスの売り出しが町を賑わしますが、まずは郵便局の年賀状売り出しです。
  ことしもらった年賀状の中で傑作は、こういう文言が刷り込んであったことです。 
  「毎年ご丁寧な年賀状をいただきありがたく存じますが、私こと老来年賀状書きも少しばかり苦痛に感じられないでもなく、今年こそ年賀状は出さぬことにしようと思いながら、実行できないでいました。今年は80歳を迎えますので、決心致したしだいでございます。これをかぎり出しませんので、貴方様も年賀状を下さいませんようにお願い申し上げます」
  まことに丁寧な絶縁状ですが、あまりいい気持ではありませんでした。このような年賀状をもらったことは、この数年のうちに3人くらいですが、出してくれるなと言われては、迷惑をかけてはいけまいと、ほんとうに絶縁になった人もあります。 
  そんな絶縁状など出さないで、年賀状といった虚礼をさっさとやめてしまった人もあるようですから、それも賢明と言うものかもしれません。
  わたくしなど例年500枚ばかり年賀状をいただき、同数の賀状を出していましたが、ことしは350枚にしました。来年は入院中なので思い切って半分にしようと思っています。
  人さまからもらう年賀状は楽しんで見るくせに、勝手な都合をつけてやめるわけにもいきません。1966年ですから今から半世紀前、はじめてパリに入り、ひとりの日本人(旅行社の人でした)と2日すごしたことがあります。帰国後一度も会っていないのですが、以後年賀状だけはやりとりしています。年賀状だけのそんな付き合いもあります。
                                                                                (古川 薫)