トップ > 名誉館長のつぶや記 > 名誉館長のつぶや記109 偶然ということ

つぶや記 109
  偶然ということ

   前回、スピルバーグ監督の『戦火の馬』の話のつづきです。実は映画や小説における「偶然」について考えてみたかったのです。
   ストーリーの面白さが、偶然によって展開されることは周知のとおりです。『愛染かつら』や『君の名は』などメロドラマは、恋人同士が、すれ違いによって、なかなか会えない。その「いらだち」が、エンターテインメントの主要な部分を支えています。擦れ違いも偶然の仕掛けなのです。
   こんどの『戦火の馬』は、可愛がった馬が戦争に徴用される悲劇から出発します。その飼主も戦争に狩り出され、ある戦場の塹壕のなかで、奇しくも、まさに奇しくも愛馬と感動的な再会を果たすという筋です。冷静な映画評論家からは、飼主と馬の再会が、あまりにもつごうよく作られた偶然であり、感動が鼻白むと水をさされているとか。
   メロドラマなどの偶然は、あり得ないと思いながら、そこは約束ごととして、あまりメクジラをたてず寛容に黙認することで成り立っています。
   充分理解しているわけではありませんが、ユングの心理学によると、偶然と思われる事象の深層には「あり得べき」要素、つまりは必然の条件が潜んでいるという。そうであれば、いちがいに偶然を笑えないことになります。
「相呼ぶ魂」が、到底不可能な障壁を克服して、不思議な偶然をつくりだすであろうことを、信じてもよいのではないかと『戦火の馬』を観たあとでふと思ったしだいです。
                                                                           (古川 薫)

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