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つぶや記 74
  テレビ商戦

   倉本聰さんの『歸國』を下関市民会館で観ました。。芝居を観て感動の涙をながすなどは、近ごろめずらしいことでした。この劇の原作は、戦時中から兵隊作家といわれた棟田博氏が戦後に書いたもので、サイパンで戦死した将兵たちの亡霊を乗せた列車が、深夜の東京駅にすべり込むという話。
   敗戦から10年後の昭和30年、NHKのラジオ・ドラマとして放送されました。学生のころそれを聴いた倉本さんが、「昭和85年」の2010年、原作を脚色したのが、舞台劇『歸國』です。原作は声高に戦争を論ずるのではなく、淡々と一夜の風景を描いたSF小説ですが、倉本さんの脚本は、彼ら「英霊」の目に映った現代の日本がシニカルに描き出されます。
   倉本さんのテレビ・ドラマ『りんりんと』については、以前ここに書きました。田中絹代が48歳のとき出演した『楢山節考』を、最晩年に再演したかたちとなった現代版「姥捨て」です。アナログ時代の傑作として後世に遺るでしょう。さまざまな名作を生んだアナログ・テレビは、過去の世界に遠ざかっていきました。「アナログ放送あと××日」などという告示が画面の隅を大きく埋める日が長くつづいた末、7月24日正午消滅、やがて画面は砂嵐になります。ぎりぎりまでアナログにつきあったわたくしもついに切り換えることにしたのですが、デジタル移行のチューナーが無いと電器屋さんがいいます。生産を中止したそうです。古いアナログ・テレビを捨てて、新しく買い替えさせるためのセコイ製作会社の商法らしい。
   まだまだ人情をただよわせていたアナログ時代は遠くなりにけり。サイパンから帰国した将兵の亡霊ならずとも、悲しい気分となるデジタル経済大国に日本はなりにけり。喝!   
                                                                     (古川 薫)

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