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 つぶや記 72
   ワンシーン・ワンショット

   映画監督・清水宏は、田中絹代の夫となった人物です。忘れられない人ですが、どうも印象がよくない。
   「試験結婚」ということで昭和2年のいつごろからか社内公認?の同棲生活に入り、2年足らずで破局を迎えました。破局というからには、その別れぎわがよろしくなく、非が宏にあることは、傍証的にも明らかですが、そのために彼が絹代にとって恩人としての存在である事実は薄れてしまっています。絹代の才をみとめ、積極的に出演の機会を与え、東京の蒲田撮影所に行くことを強く勧めたのも宏でした。彼がいなかったら、順調な絹代のその後はなかったかもしれません。絹代ファンもこれだけは、心にとめておくべきです。
   こんどテレビで『風の中の子供』を観て、おどろいたことがあります。昭和12年の時点で、清水宏が演出手法「ワンシーン・ワンカット」を駆使しているのです。シナリオでひとつの場面(シーン)として描かれている情景を、平均5秒から10秒のショット(カット)に分けて撮影するのが常識でした。ところがドラマを中断せず、カメラを据えっ放しにして撮るのが「ワンシーン・ワンショット」です。これは溝口健二監督が創造したもので、世界中の映画製作に影響をあたえた画期的な演出法だといわれています。
   溝口監督の『残菊物語』で新派の舞台俳優45歳の花柳章太郎が、年若い菊之助を演るとき、クローズアップを避け、徹底的にワンシーン・ワンショットで撮った、その過程で会得したことになっています。しかし『残菊物語』は昭和14年の公開だったのに対し、清水宏の『風の中の子供』は、昭和12年の作品です。つまりワンシーン・ワンショットは溝口より清水が先に手をつけたことになり、溝口神話が崩れてしまいますが、研究の余地ありということですか。            
                                                                          (古川 薫)
 

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