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つぶや記 54
  ナイルの騒乱

   昨年夏、田中絹代ぶんか館で小学生の作文教室をひらきました。さしあたって作文が苦手だという子どもを対象に、「きょう、この教室にくるまでのこと、道々目に入ったことなどなんでも書いてみよう」という課題を出しました。すると神社の池で亀の死を発見するコント風の傑作もあって、おどろかされました。リアリズム文学は目撃から始まるということを実感させます。
   ところで1月29日付毎日新聞夕刊の記事は、衝撃的でした。現在完了形を多用した文体も新聞記事ではめずらしく、【カイロ和田浩明】とクレジットしたその記事を切り抜きしましたので、一部を抜粋してみます。
   「各所で街灯が消え、いつもより闇の深いカイロ中心部は、人で満ちていた。路上にはデモ隊の投石が散らばり、焼け落ちた治安部隊車の残骸があちらこちらに横たわる。炎上する警察署内部で破壊音が響く。ムバラク政権の象徴でナイル川沿いにそびえる与党国民民主党の本部ビルも、紅蓮の炎に包まれていた。ごう音を響かせて国軍の装甲人員輸送車が次々に通過すると、沿道の市民は歓声を上げ手を振った。兵士も手を振って応える。・・・・・」
   「催涙ガスの発射音と刺激臭が強まってきた。広場に入る。立ち、座り、叫び、語り合う、人、人、人。さながら解放区だ。ガスの濃度が高まり、視界が白くかすむ。耐え切れずに去ろうとする人々に戻れ、戻れと声がかかる。上空を国軍ヘリが舞う。・・・・・・」
   目撃者による切迫した描写、現場からの報道は、表現されたときから文学性を帯びています。開高健の『輝ける闇』、ノーマン・メイラーの『裸者と死者』やドス・パソスの『U・S・A』を読むような、時々はそんな北ア、中東からのすぐれたルポルタージュ記事で埋まるこのごろの新聞から目が離せません。   
                                                                             (古川 薫)
 

 

 

  

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