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  つぶや記 36
  りんりんと 

  
旅いそぐ鳥の列にも
 
 季節は空を渡るなり ーーー  
             (三好達治「乳母車」)
 わたくしなど散文世界に生きてきた者にとって、このように抽象化された表現は、いくら気張っても生み出せない。おそらくは訓練によって身につくものでもありません。
 詩人という人たちが持つ、生得の言語感覚というのでしょうか。これは三好達治の処女詩集『測量船』のうち「乳母車」の一節です。
ーーー 時はたそがれ/母よ 私の乳母車を押せ/泣きぬれる夕陽にむかって/轔々と私の乳母車を押せーーー
 この「轔々」という字は、むろん広辞苑では出てきません。漢和辞典で「勢いよく車がきしむ音」であることを知りました。楚辞(楚の屈原の作品とその門下、後人の作を集めた書)にある字であることも、勉強しました。
 倉本聰脚本のテレビ・ドラマ『りんりんと』には、この三好達治の詩が、主調音として暗示的に繰り返されます。田中絹代最晩年に近い出演作品で、息子の車に乗せられ、北海道の老人ホームに送られていく老女をみごとに演じています。「姥捨て」の現代版ですが、子供の内心を気遣ってわざと明るく振舞う絹代の絶妙な演技で、深刻な内容にヴェールを掛け、
詩の韻律とともに美しく悲しく話は運ばれていきます。田中絹代は48歳のとき『楢山節考』で高い評価を受けましたが、それと一対となる作品で同年代の老女を演じ、2年後に永眠しました。『りんりんと』は11月27日中絹代ぶんか館ミニホールで上映されます。       (古川 薫)

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