トップ > 名誉館長のつぶや記 > 名誉館長のつぶや記26 敗戦のセミしぐれ

つぶや記 26 
  敗戦のセミしぐれ

   ことしは7月の中旬になってもセミの声がしないので、やはり異常気象かと不気味な感じがしていました。下関市長府のわたくしが住んでいるあたりでは、毎月7月 14日前後に初ゼミの声を聞いていました。
  7月14日はフランス革命記念日で、日本とは関係のない日です。ルネ=クレール監督の映画の題は『7月14日』だったのを、日本人が勝手に『巴里祭』と訳したことにはじまり、この日フランスかぶれの日本人が、ワインで祝杯をあげたものでした。わたくしなども勝手に「初ゼミはパリ祭
のころ鳴く」と記憶のしおりにしてきたわけです。
   さて戦後65周年といわれることしの8月15日ともなれば、さすがにうる
さく鳴きたてるセミしぐれを浴びる毎日です。
   ひところは西日本の盆を「月おくれのお盆」と,メディアは言っていました。陰暦 7月13日~15日の仏事なら、新暦8月のお盆を月おくれなどというのは誤りだと気づいたからでしょう。猛暑に襲われている列島の道路が、ふるさと往復の車で埋もれるいっぽうでは、広島に次ぐ長崎への原爆投下など風化しない悲惨な悪夢をなぞる新聞、テレビ番組にやりきれなさを覚えながらも、耳目をそむけることはできない敗戦記念の数々です

   昭和20年(1945)8月15日正午、わたくしは兵庫県の航空隊で「玉音放送」を聴きました。激戦地沖縄転属の直前でした。敗戦の絶望と同時に、死から開放された喜びをないまぜにした混沌のなかで聴いた天皇の沈鬱な声と,セミしぐれが、65年を経た今日も、わたくしの耳朶にひび
いています。
   遠い国の革命記念日から連想する初ゼミの声と、自分の生死を分けた昭和20年の晩夏の一瞬に聴いたあのセミしぐれと・・・・・・。戦争の世紀といわれる20世紀を生き延びて、なお21世紀の空気を吸いつづけている生き残り航空兵が迎えた 65回目の敗戦記念日でした。 
                                                                             (古川 薫)

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