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つぶや記 27 
  姥捨山長寿大国

   田中絹代主演、木下恵介監督の『楢山節考』は、昭和33年(1958)松竹大船作品です。深沢七郎の小説を映画化したもので、絹代は49歳、例の投げキッス事件のとき、意地悪な新聞から「老醜」と揶揄された屈辱が、まだかすかに尾をひいておりました。
   すでに『真昼の円舞曲』(絹代40歳)のとき、健康な前歯4本を抜いています。その差し歯をはずしての体当たりの演技であり、老いを逆手にとった老婆役への捨て身の挑戦でした。
   おりんは、山に捨てられる覚悟ができていながら、息子の辰平は老女を捨てに行こうとしない。それが年をとって歯も抜けないほど元気でいるためだと知り、おりんは石臼をかじって、前歯を折ってしまいます。老婆が石臼に噛みつく鬼気迫る場面が話題となりました。
   その年、絹代のふるさと下関は、関門国道トンネル開通でにぎわうなど、国じゅうが好景気にうかれているころです。そこへ貧しく悲しい姥捨伝説を送り出す皮肉は、もちろん映画人の意図するところだったのでしょう。親を老人病院へ入れて、見舞いにも行かない現世の姥捨が、社会現象として、ひそかに進行していたのです。
   『楢山節考』は、「キネマ旬報」ベスト・テンの1位となり、女優賞を受けて、『サンダカン八番娼館・望郷』とならび、絹代の女優生活の最終をかざる2大作品となりました。
   姥捨ての残酷な風習の事実は、遠いむかし、あったにちがいないが、それは伝説としてのみ形をとどめていると、思われてきました。このごろ100歳を超える老人の行方不明事件が、次々と発覚して大問題となっています。
   長寿大国を誇る日本の恥部がニュースとなって、地球を駆けめぐっていると聞き、先人顕彰館2階に展示してある『楢山節考』の中の美しく老いた田中絹代の白髪の面差しが、愁いで曇っているように見えるのも、たいへん悲しいことであります。              
                                                                 (古川 薫)

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