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つぶや記 21
  女優の美しい顔

   田中絹代の投げキッスでヒステリーを発した新聞の罵詈雑言は、40歳だった絹代の顔に「老醜」が浮かぶとまで言いつのりました。
「鎌倉山の崖から飛び降りて死んでしまいたいと、何度思ったかもしれません」
   後年、絹代はそう述懐しています。しかし彼女は理不尽な非難を受けて自殺するようなやわな人間ではありませんでした。そしてその身辺には、あたたかく見守り、はげましてくれる人々もいたのです。たとえば溝口二監督がそうでした。
   溝口監督は、谷崎潤一郎原作の「蘆刈」を映画化する『お遊さま』
(大映)の主演絹代を起用、「田中絹代はこんなにも美しい女優だと、
みんなに分からせてやります」と言い、宮川一夫カメラマンと熱のこもったコンビを組んで、この映画は出来上がりました。残念ながら谷崎文学の複雑微妙な世界を描ききれないで高い評価は得られませんでしたが、磨き抜かれた美しい絹代に会いたいと思う人は見逃すことのできない作品です。
   さてところで、田中絹代ぶんか館には、ベルリン国際映画祭で最優秀女優賞をもらったときの絹代の写真が展示してあります。シルバー・ベアーのトロフィーと共に撮った記念写真ですが、ほとんど素顔に近く、このころすでに病んでいた絹代の顔は65歳の老いが色濃くにじんでいます。
病んだ絹代には、化粧する気力もわかなかったのでしょうか、病み疲れた素っぴんを写されるという女優として、実に不本意な結果となりました。この写真を見た俳優・監督の奥田瑛二氏に意見を伺うと「絹代さんには気の毒な展示ですね」と感想をもらしておられました。問題の写真は保存することにして、女優田中絹代の最高に美しい顔と取り替えたいと思うのすがどうでしょう。                         
                                                                          (古川 薫)

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下関市近代先人顕彰館 田中絹代ぶんか館

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