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つぶや記 233
  アメリカの謝罪

   大東亜戦争(太平洋戦争)終結のころ、わたくしは航空通信連隊の兵士でした。当時では最新鋭のスーパーヘトロダイン・システムを備えた無線機をあつかっておりました。
   日本向け謀略放送「サンフランシスコ放送」は明瞭に受信できましたから、みんなでひそかに聴いていました。もちろん禁を犯しての行為ですが、国内で発表される戦果との違いが単なる謀略ではないのではないかという意見が出始め、聞き逃せなくなったのです。
   昭和20年5月ごろから「ザカライアス放送」がはじまりました、ザカライアス大佐という軍人ですが、流暢な日本語で落ち着いた話しぶりで、語りかけてくるのです。ポツダム宣言もこの人から聴きました。「米英支共同宣言」というものです。要するに無条件降伏しろといっているわけです。
   ザカライアスは「無条件降伏は日本の絶滅を意味しない」と、懇切に受諾を説くのでした。日本政府ははじめポツダム宣言のことを国民には秘密にしていたのですが、隠しきれなくなって、新聞に発表しましたが、鈴木貫太郎首相は、「黙殺する」と言い放ちました。ザカライアスは匙を投げ、捨てゼリフみたいなことを言って、放送はそれきり打ち切りとなりました。そして間もなくの8月6日の広島原爆投下です。つづいて長崎投下です。
   やっとポツダム宣言受諾、終戦となりました。わたくしは証言します。この経緯をみるかぎり、たしかに原爆投下で戦争は終わりました。アメリカ国民の大半はこれをもって原爆投下の正義を主張するのです。
   しかし一瞬で十数万の人間を殺戮する行為を正義といえるのか。広島に落とし、さらに長崎に落とすという残忍な行為は、あきらかに神を恐れない鬼畜の仕業であり、今次大戦における最大の戦争犯罪です。
   アメリカの大統領が、広島に足をはこび原爆慰霊碑に花を捧げました。謝罪しろという日本人が多かったのは当然でしょう。だが国民の大多数が原爆の正義をさけび、日本に謝罪するなの声を押し切って広島にやってきたオバマ氏の勇気と誠意は認めなければなりません。慰霊碑にぬかずいた行為自体が、無言の謝罪だとわたくしは理解します。日本には「以心伝心」という言葉があります。今は静かに、原爆犠牲者の霊に祈りをささげ、核のない未来への大悲願に心を浸したいと思います。
                                                                               (古川 薫)

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