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つぶや記 212
  植民地支配の「反省」

   戦後70年談話に対する賛否両論が交わされていますが、批評ばかりでは将来に益するものは何も生まれてきません。わたくしは目下、戦争末期に散華した神風特攻第三龍虎隊に関わる本『君死に給ふことなかれ』(幻冬舎)の出版で多忙な日々をすごしていますが、この若い特攻隊員たちが、死ぬ間際まで言い続けていたことは、祖国の平和を祈念する異口同音のメッセージでした。
   彼らの魂は祖国の青空を飛翔しながら、この談話に聴き入っているのではないかと、思わずにはおれません。わたくしなりに特攻隊員に憑依して、感想を述べるとすれば、今回の談話で、歴代首相のそれになかった二つの特色を挙げておきます。
   第1点は、あの戦争に関わりのない子や孫、またその先の世代に「謝罪」を背負わせないという文言です。謝罪に終止符を打つ決意は、ナチスの悪業を背負うドイツですでに表明されたことですが、日本の総理大臣としてははじめての談話で、深く共感します。ただそれと「戦争を知らない世代」における戦争の風化とは別です。歴史認識は継いでもらわなければなりません。
   さて、問題は第2点です。これも歴代総理が触れなかった近代史への視点です。「百年以上前の世界には、西洋諸国を中心とした国々の広大な植民地が、広がっていました。圧倒的な技術優位を背景に、植民地支配の波は、十九世紀、アジアにも押し寄せてきました・・・・・・」
   この冒頭のあたりの文言には、日本人としての絶叫にちかい気持ちがこめられています。今、わたくしたちは20世紀に犯した侵略・植民地支配を世界から指弾され謝罪を迫られています。
   それに抗う意味ではなく、わたくしたちが言いたいのは、15世紀から起こった大航海時代という侵略、植民地支配の波は19世紀に入ってさらに高潮し、地中海沿岸各地、インド、マレーシアから、彼らがいう極東アジアにせまってきました。英国による中国侵略のアヘン戦争が巻き起こす対外危機感から、憂国の志を高めた吉田松陰をイデオローグとする明治維新発祥の経緯はいまさら説明の必要はありません。
   「植民地支配から永遠に訣別し、すべての民族の自決の権利が尊重される世界にしなければならない」と談話は日本人の決意を述べています。日本人のみならず、前世紀から尾をひく植民地支配という地球人類の不幸の根源を断ち切る「大いなる反省」を全人類に呼びかける日本国宰相のメッセージです。これについてテレビも新聞も、有職者のだれもが気づかぬふりで無視しているのが、わたくしには不思議でならないのですが。
                                                                               (古川 薫)

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