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つぶや記 170
  美しき疾駆

   あけましておめでとうございます。
   ことしは午年ですから、疾駆する馬の写真などをあしらったカレンダーを多く見かけましたが、近隣諸国からの脅しにも似た挑発にからんで、集団的自衛権の論議に短絡するなどきな臭い空気が立ち込める中を疾駆するのは、どんな馬なのでしょうか。
   わたくしは以前、ジャカルタに行ったとき、ポニーと呼ばれる小形の馬をよく見かけました。植民地時代のイギリス人が置きみやげとして残した愛玩動物ですが、今は労働力としてこき使われ、荷物運搬の車を挽かされているのです。沛然と降りしきるスコールの中、ムチでたたかれ、あえぎながら走っている哀れなポニーの姿は、とても疾駆というものではありませんでした。以後わたくしは競走馬もふくめて、どのような馬であれ、人間が乗りこなし、酷使している様子を見るのがつらくなりました。
   最近、『戦火の馬』というアメリカ映画を観ました。人間と馬との感動的な話に仕上げてあるのですが、わたくしには動物虐待の物語にしか思えませんでした。第二次大戦でも無数の馬が戦死しています。
   動力の単位を馬力(HP)と今も呼んでいるようですが、ことほどさように馬は、労働・闘争・遊びの賭け事の道具として人間に消耗品あつかいされる最も悲運の動物として生まれてきたのです。
   19世紀フランスの画家ドラクロワは、好んで疾走する馬を描き、名画を遺しましたが、それはムチ打たれて走らされる競走馬の絵です。疾駆する馬の美しさは、青空の下を自由に走る放し飼いの馬のそれでなければなりません。
   たとえば都井岬の草原を疾駆する野生馬の群れのように、坂本繁二郎が描く悠々草を食む牧場の馬のように、2014年・平成26年が明るい平和な午年であることを祈るばかりです。
                                                                              (古川 薫)

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