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つぶや記 90
  『一命』に失望した

   カンヌ国際映画祭に出品、落選した日本映画『一命』を観ました。この作品の原作は、わたくしの親友滝口康彦(故人)の『異聞浪人記』です。
『切腹』と改題して小林正樹監督により映画化、昭和37年(1962)同じくカンヌ国際映画祭に出品して審査員特別賞を受賞しています。
   主演の仲代達矢さんとは、先般佐賀県多久市での滝口康彦文学碑の除幕式でお会いし、1時間ばかり話す機会がありました。
   この映画の中で主人公の津雲半四郎と彦根藩家老(三国連太郎)との緊迫した会話が圧巻で、そのことについて仲代さんが熱をこめて語っておられたのが記憶にのこっています。それで気付いたのは脚本(『切腹』の脚本は橋本忍)の役割です。脚本によって原作は新たな作品となり、監督がさらに新しい生命を吹き込む。そして俳優。この4者一体となって傑作が生まれるということです。
   率直に言わせてもらえば、『一命』の4者は『切腹』と比べものにならないと申し上げたい。次に腹立たしいのは、今度の国内上映でこの作品がヨーロッパの人々を「驚愕、震撼」させたと宣伝しています。むこうの人々も先刻知っているハラキリの、それも竹光(竹で本身をすりかえた模擬刀)で切腹する超残酷場面を作りだし、それを売り物にしている底の浅いしろものであることを、みずから告白するような宣伝文句でした。
   原作が内臓する「葉隠」の武士道精神を全体として表現した前作『切腹』に拍手したヨーロッパの人々に、志の低さを見抜かれてしまったのです。
   海老蔵さんの演技にも首をかしげました。やはり映画では、仲代達矢に遠く及ばないという感じでした。わたくしが悔しいのは滝口の秀作が、このような姿で惨敗したことに対してです。    
                                                                         (古川 薫)

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