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つぶや記 71
  原作者を無視する無知
 

   7月3日のNHK・BSテレビで清水宏監督の『風の中の子供』(松竹)を観ました。
   原作は坪田譲治の同名作品です。譲治は日本の児童文学を代表する作家のひとりで、芸術院会員、昭和57年92歳で亡くなりました。
   小川未明と共に日本の創作童話をきりひらいた作家として知られていますが、未明の北欧風ロマンティシズムに対し、譲治は日本的リアリティに裏づけられた子供の世界を描いたとされています。『風の中の子供』は、子供の幻想と大人の現実的な不安をからませた作品で、映画『風の中の子供』は、1937年度(昭和12)キネマ旬報ベストテンの第2位に挙げられています。
   わたくしが不満だったのは、この映画を紹介するある映画監督と女性アナウンサーが、原作についてひとことも喋らなかったことです。わたくしがしばしば言ってきたのは、傑作映画のほとんどは、傑作の文学作品が原作となっているとう事実です。はじめて国際映画祭で脚光をあび、日本映画が第1級のレベルにあることを世界に知らしめた黒澤明の『羅生門』の原作は、芥川龍之介の『藪の中』でした。
   映画『風の中の子供』を語るのに、原作を無視するのは、日本児童文学の泰斗・坪田譲治の文業を知らない無知からくるものだといわざるを得ません。
   ところでこの映画の監督清水宏が、一貫して日本の自然描写と子供の生活を描き、戦後はみずから戦災の浮浪児の世話をし、『蜂の巣の子供たち』が、1948年度(昭和23)キネマ旬報ベストテン第4位に評価されたという紹介もありませんでした。実は田中絹代と結婚した男性であることまでの紹介は不要かもしれませんが、わたくしたちにとっては忘れられない事実なので、次回はそれについてお話しします。
                                                                          (古川 薫)

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