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つぶや記 67
  定点観測

   「定点観測」という言葉は、辞書で引くと「海洋上の定点で行われた連続的な観測」とあります。もともとは気象観測の用語らしいのですが、動かない場所からの冷静な状況観測という意味で使われてもいます。錯綜した社会現象に取り巻かれたこんにちにおいては大事な視点と言えましょう。
   すこし話は飛躍しますが、戦地におもむく若者の母親が歎き悲しむ深刻な場面を、テレビ・ドラマが描いています。例外もあるでしょうが、当時の日本の母親は悲しみを必死に隠していました。
   松竹映画『陸軍』は敗色濃い昭和19年、田中絹代出演の作品です。出征して行く息子の隊列を追う母親の行動、表情をこれでもかとばかり映し出した長いシーンが評判になりました。軍当局は上映禁止を考えたようですが、逆効果と判断して、苦々しげに許したのは、それが国民のあいだでひそかに認識されている真実であることがわかっていたからです。戦時色渦巻く世相の陰に隠れた母親にスポットをあてる定点観測を敢行した映画人木下恵介の冒険的作品でした。
   さらに話は飛躍しますが、6月2日に政府は社会保障の改革案に、消費税を5%から10%に引き上げる方針を明記しました。それを報道する記事は、菅内閣不信任決議案の派手な記事のうしろに小さく隠されてしまいました。ある社説は、「普通なら、翌日の国会で大議論となりそうなものだが、参議院予算委員会の質疑は菅直人首相がいつ辞めるのか、のほぼ一点に集中した」と書いています。
   一連の動きは国民を忘れた政争でしかないことを指摘しているのですが、1面トップの重要ニュースであるべき消費税率大幅引き上げは4面にまわって、政界大騒動に一点集中です。いつの世にも求められるのは「定点観測」であります。                  
                                                                             (古川 薫)

 

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