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つぶや記  40
伊豆の踊子

  上京の帰途、修善寺を起点に伊豆半島を一巡、天城越えをしてきました。紅葉には少し早く、期待を外されましたが、山紫水明の自然を満喫して、わずかに充電することができました。そして、『伊豆の踊子』を、目いっぱい観光資源に利用している土地の空気も確かめました。
   昭和8年、五所平之助監督による松竹映画『伊豆の踊子』は、その後監督・配役を変えて、リニューアルを重ね、長く人々の記憶にきざまれてきました。踊り子の初演が田中絹代であること、なによりも原作がノーベル賞作家川端康成であることも、ほとんど忘れ去られていますが、一高生と踊り子の淡い恋物語だけが、いつまでも一人歩きしています。
二人が寄り添うブロンズ像が、天城峠のあちこちに建てられ、数か所に及んでいます。出来のよしあしは言わないことにして、行く人の微笑をさそっていました。
   「道がつづら折りになって、いよいよ天城峠に近づいたと思ふ頃、雨脚が杉の密林を白く染めながら、すさまじい速さで麓から私を追って来た」
気鋭の新感覚派らしい文体で読者を魅了した『伊豆の踊子』の書き出しの文章を想起しながら、踊り子像を見ていると、作者の気持ちと溶けあう旅愁に、思わず胸がうるんでくるようでした。「踊子は十七くらゐに見えた。私には分からない古風の不思議な形に大きく髪を結つてゐた。それが卵形の凛々しい顔を非常に小さく見せながらも、美しく調和してゐた」
   異能の作家が描く踊り子の表情が、体当たりで演技する田中絹代の思いつめた可憐な面立ちに重なったのはもちろんであります。   
                                                                         (古川 薫)

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