名誉館長のつぶや記

名誉館長のつぶや記202 春眠夢占い

つぶや記 202
  春眠夢占い

   人は時々不思議な夢を見ます。悪夢・正夢・逆夢・上夢といろいろです。むつかしいことを言えば深層心理学の夢分析があり、その代表的な学者としてはフロイトとユングが知られています。
   フロイトの夢判断は「性」に結びつけ過ぎると批判されていますが、いずれにしても「当たるも八卦、当たらぬも八卦」といわれるのと同様、「夢占い」など全面的に信じられるものではありません。
   しかし未来を予兆する正夢もあるとされているので、半信半疑ながら占ってみたいと思うのも人情というわけで、インターネットの「夢占い」をこころみる若い人々が多いらしい。いや若者にかぎらず、かく申すわたくしなども、最近不思議な夢をみたので、占ってもらいました。
  その夢というのは、広い部屋にひとりでいる自分が「花を」と思った瞬間、テーブルの上の花瓶にバラが活けられ、腕を振ると周囲の壁がバラで飾られ、さらに天井までがバラで埋めつくされたのでした。
  こんな部屋をもう一つ増やしたいと、また腕を一振りすると“薔薇の部屋”が次々と現れるのです。わたくしはちょうど新しい仕事にかかっていたので、すばらしい未来の予兆だと小躍りしました。
   後日、その話を田中絹代ぶんか館のある女性学芸員にすると、「占ってあげましょう」と、さっそくやってくれました。「あなたが隠したい秘密が心の中で黒い影のように存在し、消し去りたくても消えずに居続け、苦しめます。あなたの潜在意識は、それからの解放を望んでいます」という判断です。本来バラの夢は情熱・希望といった吉兆に結びつくはずですが、判断を導きだすために入力した「殺風景」「一人」「淋しい」からそうなったのでしょう。吉兆とばかり思っていた夢がそれだったので、大いに失望しました。しかし当っていなくもない判断ですから、それはそれとしてカンシンしたのであります。ところでこの夢の話はまだ続きがあります。
   自分がいつの間にか魔法の腕を与えられたのだと気づき、興奮した衝撃で目覚めたのでした。たまたま家人が見ていたテレビ・ニュースが中東の戦争を報じていたので、「もういい加減にやめろ!」と叫びながら、腕を振っていました。まだ半睡状態です。夢の内容をコントロールできると自覚しているこの現象を明晰夢(めいせきむ)というのだそうです。
   痩せた腕を一振りしても戦争は終わらないとわかってから、わたくしは完全に目覚めました。「魔法の力を備えた全能の神が現れないかぎり、際限もない戦争の季節を終息させることはできない」
   それが現実に引き戻された鈍い頭で納得した春眠の夢占いでした。
                                                                             (古川 薫)