名誉館長のつぶや記
名誉館長のつぶや記94 猫の「ポーちゃん」
つぶや記 94
猫の「ポーちゃん」
晩年、田中絹代は「ポーちゃん」と名づけた一匹の猫を可愛がっていました。このごろ女優が飼う猫といえば、外国種の血統書付きの高価なお猫さまなのでしょうが、絹代さんが飼っていたのは、拾ってきた雑種の日本猫でした。そこが好ましいですね。
1977年(昭和52年)3月、67歳で不世出の女優田中絹代永眠。さて主人亡き後、ポーちゃんはどうしていたかといえば、「田中絹代の忠犬ハチ公」と揶揄されても気にせず、献身的に尽くした仲摩新吉が引取って育てました。ポーちゃんは、この男性のもとで、幸せな一生を終わったのでしょう。
時間があれば、「女優と猫と男の話」を短篇小説にしたいと、以前から構想だけは練っているのですが、まだ果たしていません。
ところできょうは猫の話です。例によって、広辞苑を引きと、実にくわしく説明してあります。興味をおぼえ、それではとわが国初の本格的「普通語辞典」として発行された大槻文彦著『言海』を引き、読みやすく書き換えるとこうなります。
『・・・・・・人家に飼う小さな獣(けもの)なり。温順にして馴れやすく、またよく鼠を捕う。しかれども窃盗の癖あり。形、虎に似て、2尺に足らず。性、睡りを好み、寒を恐る。(略)その瞳、朝は丸く、次第に縮みて、正午は針の如く、午後はまた次第に広がりて晩は再び玉の如し。暗処にては常に丸し」
こんな愉しい辞書ができた時代が懐かしいですね。それは1889年(明治22)のことでした。
(古川 薫)