名誉館長のつぶや記

名誉館長のつぶや記43 名女優の光芒

つぶや記 43
  名女優の光芒

   田中絹代ぶんか館発足の年、平成22年(2010)も終わろうとしています。ほぼ2万人という予想を超える数の入館者を迎え、きょう12月28日をもって開館第1年の幕を閉じます。
   以上、明るい表情でお話ししているのですが、絹代の年表をにらんでいると、にわかにわたくしの顔色が曇っていくのがお分かりでしょうか。実は、昭和51年のきのう田中絹代が死の床に就いたのでした。 
   NHKのドラマ『雲のじゅうたん』のナレーションをすべて終わった昭和51年12月27日、「わたくし疲れましたので、しばらく静養することにいたしますわ」と担当者につげて、絹代は東京中目黒の楢林クリニックに入院、2度と起き上がることはありませんでした。翌年3月21日永眠。波瀾にみちた67年の華麗な生涯です。
   昭和51年の映画出演は『北の岬』(熊井啓監督)と『大地の子守唄』(増村保造監督)の2本、これが田中絹代主演映画最後の作品です。 
   絹代のテレビ出演は『樅の木は残った』(昭和44年)などナレーションを除き7本で、その最後の作品が昭和51年、『前略おふくろ様』(倉本聰脚本)につづき、同じく倉本聰脚本によるテレビ・ドラマ『幻の町』です。
   先日ぶんか館でこの作品を観ました。絹代と笠智衆が、老夫婦になって人間の最晩年を静謐な雰囲気で描いてみせるこの作品は、倉本さんの傑作ドラマのひとつと思いました。
   尽きかける命を振りしぼって、最後の演技にいどむ大女優の息遣いが光芒を放つ『幻の町』の場面を思い出していると、歳晩の愁いは吹っ飛んで、新しい年への意欲が沸いてきます。来年もよろしく。 
                                                                           (古川 薫)