名誉館長のつぶや記
名誉館長のつぶや記18 流転の王妃に会いたい
つぶや記 18
流転の王妃に会いたい
こないだ舞い込んできた分厚いダイレクト・メールは、「名盤浪漫想」という名曲・名画をDVDやCDの何枚組かに編集したもののカタログでした。
その中に田中絹代の出演映画をDVD化したのが売り出されていて「田中絹代生誕100年キャンペーン」「昭和の大女優が巨匠たちと残した傑作選」とあります『マダムと女房』『春琴抄』『愛染かつら』などおきまりの作品が並んでいます。それら絹代の主演作品のほかに、田中絹代監督作品があるのですが、とくに『流転の王妃』を未見の人も多く、見たいという声しきりです。
幕末、幕府に追われて下関に逃げてきた勤王の青年公家中山忠光は、はじめ長府藩に庇護されましたが、もてあました長府藩の手で暗殺されてしまいます。(暗殺現場は豊北町田耕)
忠光が落命したとき、侍女恩地トミは懐妊していました。遺児仲子(南加)は、中山家が引取り、嵯峨家に嫁ぎます。仲子の孫娘嵯峨「浩」が、やがて満州のラスト・エンペラー愛新覚羅溥儀の弟溥傑のところに嫁ぐことになります。やがて終戦。浩が書いた自伝『流転の王妃』を、田中絹代が監督、映画化(同名)され、昭和の秘史として大きな話題となりました。悲劇のヒロイン愛新覚羅浩と愛新覚羅溥傑の墓は下関市綾羅木町の中山神社(中山忠光の墓所)境内にあるのです。絹代にとっては、自分のふるさとに関わる歴史と人物を映画化するにあたっては、特別の思い入れがあったに違いありません。わたくしもぜひ下関でこの作品が見たいのですが、テープにもDVDにもなっていません。フィルムからこれを起こすためには、かなりの制作費が必要で、今のところ計画が頓挫しています。流転の王妃に会えるのは当分先のことになりそうです。
(古川 薫)