名誉館長のつぶや記

名誉館長のつぶや記165 羅(うすもの)に絹代の翳

つぶや記 165
  羅(うすもの)に絹代の翳

   俳誌「其桃」八日会の「田中絹代ぶんか館吟行」作品が寄せられましたので紹介します。なかなかの好句ぞろいで、このような視線で絹代記念館を観察すると、またひとしおの味わいがあります。1人5句が選ばれていますが、2句ずつを披露させていただきます。           (古川 薫)

   枇杷熟れて一川街を貫けり        石秋
   梅雨館鎖渦巻く銀時計

   羅に絹代の翳の小柄なる         泉
   紅い団扇絹代の風にあたりたし

   潮の香の川飛び越ゆる夏の蝶         恵子
   来し方の女優人生絽に透くる

   愛用の珊瑚のかんざし梅雨微光        尚文
   赤鉛筆で囲みし台本梅雨湿り

   監督絹代手擦れの赤き夏帽子         初枝
   古書店に帯封を解く濃紫陽花

   在りし日の如く置かれし夏衣        悦子
   設へし絹代の居間の夏座布団

   半衿の刺繍の花火弾けをり         冨美
   映写機の塗装の剥がれ古簾

   梅雨微光絹代の台本朱に染まる       康成
   銀幕の絹代の耀き夏近し

   シナリオのなかの生死ひでり梅雨      元
   黒揚羽型の古りたる旅鞄

   赤が好き小さなグラス絹代館        美智子
   甘き香の薔薇のアーチをくぐり来る

   あぢさゐや絹代が憩ふ小座布団       清子
   薫風や絹代の昭和ベレー帽