名誉館長のつぶや記
名誉館長のつぶや記151 摩利支天に祈れ
つぶや記 151
摩利支天に祈れ
フィギュア・スケート世界選手権大会をテレビで観戦しました。男女選手とも日本人の、おしなべて精神力の弱さを痛感したのは、今回ばかりではありません。
とくに腹立たしい思いをしたのは、浅田真央選手の不甲斐なさです。韓国のキム・ヨナ選手とは、実力において伯仲していることは、だれもが認めているところ。
キム・ヨナ選手の滑走にはまったくの隙がない。つまりミスがないのです。不動の精神力といったものを身につけた堂々たる演技が、彼女を頂点に押し上げるのです。
テクニックの稽古ばかりにはげんでも、いざというとき雰囲気に圧倒され五体がすくんでしまったら、実力の発揮しようがないじゃありませんか。時には座禅を組むくらいの意欲はないかと思うのですが、そういうことが非科学的な時代錯誤の行為として一笑に付しているのかもしれません。
国際試合に臨む日本のサッカーや野球チームに「サムライ」のニックネームをつけているのは、真剣勝負が究極的には、合理性を超越した精神力の対決であると信じる伝統的な武士の世界にあやかろうというねらいもあるのでしょう。
ある武術の極意書の最後に「魔利支天に祈れ」と書かれているのを見たことがあります。宮本武蔵の「五輪書」のような細々とした技法を述べた後最後の1行にそれを教えていることに深くうなずくのです。
摩利支天は、梵語で「陽炎」を意味するそうです。仏教では「常にその身を隠し、これを供養する者の為に障難を除き利益をほどこす女神」と辞書にあります。日光・陽炎の神格化、護身・隠身・勝負の守り本尊として武士に信仰されました。
どうです浅田真央さん、勝負の女神さま・摩利支天に祈ってみませんか。
(古川 薫)