名誉館長のつぶや記
名誉館長のつぶや記15 東京奇兵隊
つぶや記 15
東京奇兵隊
菅直人さんは山口県にとって、伊藤博文から数えて県出身9人目の総理大臣のはずです。しかし、いまいち歓声があがりません。
6月9日の新聞に載った「菅内閣の顔ぶれ」を見て気づくのですが、菅総理の選挙区は「東京18区」となっています。地方人の場合は、三重1区、長崎1区というようにそれぞれ県別の出身地をあらわしています。
菅総理は高校生のとき宇部から東京に移り、人生の大半をその地ですごした「東京人」です。いまいち歓声があがらない理由は、そのあたりの微妙な心理が県民にはたらいているからかも知れません。
ずっと以前、田中絹代さんと木暮実千代さんが先帝祭に参加されたことがあります。たしかそれにちなんで、会場を下関においたNHKのクイズ番組があって出演した木暮さんに、アナウンサーが「木暮さんも下関でしたね」と聞いたのです。すると、「いいえ、私は東京です」という返事でした。彼女が彦島で生まれたこと、梅光女学院を出ていることを知っている下関の人々は少しく憮然といたしました。昭和29年発行の『映画百科辞典』にも木暮さんは下関出身とあります。東京ですと強調するのは、東京で暮らしている女優の見栄と見ました。東京で「イナカ」というのは蔑称でしかありませんから。
東京を選挙区とする菅総理はどうなんでしょうか。こと選挙となれば、やはり木暮さんと同様な心理がはたらくのかなと思っていたら、初会見で「奇兵隊内閣」とみずから命名されたのは愉快でした。菅さんは高杉晋作を忘れていない。やはり長州人でした。
(古川 薫)