名誉館長のつぶや記
名誉館長のつぶや記14 反魂丹クスリ袋の河豚
つぶや記 14
反魂丹クスリ袋の河豚
出版社のPR誌が送られてきます。宣伝ばかりでなく、ページの大部分は一般寄稿家のエッセイや論文、小説などに割かれています。とくに岩波書店の「図書」がいいですね。日ごろカタイ本を読むことが少ないので、この手ごろの雑誌を暇を見つけては読むようにしています。けばけばしく飾りたてず知的な遊びの趣を凝らした表紙も好ましく、毎号が楽しみです。またその裏側の解説文を味わいながら勉強もさせてもらっています。
このところフランス文学者の宮下志朗さんが担当しておられ、6月号の表紙は、昭和初期の薬袋です。越中富山の「反魂丹」は、「ハナクソ万金丹」などと共に、わたくしたちの年齢の者には、かすかな子ども時代の記憶があります。宮下さんの話は、いきなりフランス語の「毒消し」からはじまります。さらにモリエールの喜劇『病は気から』にうつり、ルネサンス時代には「毒消し」が行商人の意味でも使われていたとか。本の商いと薬の商売が結びついていたとはおどろきですが、何か意味ありげでもありますね。反魂丹とは死者の魂を呼び戻す、死者を蘇生させるといったことも教えられました。
さて6月号の表紙に紹介された薬袋に「ふぐたこ印」とあり、ラベルの下のほうに、河豚と蛸がユーモラスに描かれています。反魂丹が河豚中毒の応急薬と思われていたなつかしいムカシの話。ともあれ「図書」のこの表紙に目を吸われたのは、わたくしが河豚の本場下関の市民だからであります。
(古川 薫)