名誉館長のつぶや記
名誉館長のつぶや記136 頭上を飛んだオスプレイ
つぶや記 136
頭上を飛んだオスプレイ
米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイは、飛行機といった概念からは遠く離れた「空飛ぶマシン」という感じの航空機であると思いました。
飛行機は、空気力学上のムダなものを一切はぶいた究極の形、それは儀軌という約束にしたがい、わずかな自由空間で個性的な顔かたちを彫りあげる仏像に似た空の芸術作品です。
それはプロペラ、ジェットの別なくあらゆる飛行機が見せる優雅な造形品です。今もむかしもです。最近のドイツ空軍の新鋭戦闘機ユーロ・ファイターなど、戦闘などという禍々しい目的でつくられたのが残念でなりませんが、いまや極限にむかう航空美学の粋を見せてくれています。
その点でオスプレイは、合理的に組み立てられた空飛ぶマシンです。たしかに長い滑走路付きの空港を不要のものとし、垂直に飛び立つなり、ローターはプロペラに変身して機体を驀進させるという飛行機の理想を実現させた航空機ではあります。アメリカ人のプラグマティズムを創りだした傑作ともいえますが、実用目的に囚われた設計者の美意識の欠如でしょうか。美しくありません。空飛ぶ兵器そのものです。
先日、長府町に住んでいるわたくしの頭上に、このオスプレイが爆音をひびかせて飛来しました。この地域では関門海峡の上空を飛ぶはずだったのに、そんな約束はとっくに破られています。軍の横暴は古今東西の常識。これから日本列島上空を訓練空域として、空飛ぶマシンが暴れまわることになりそうです。
政府はオスプレイに構造の欠陥はなく、事故は人為ミスだと安全性を強調しています。人為ミスが危険なのですよ。専門誌「航空ファン」9月号(オスプレイ日本配備特集)によると、オスプレイにはクリアされていない操縦上の危険な特性がいくつかあると指摘、たとえばローターを水平位置に変換するさい、飛行高度が数百メートル落ちることがあるというパイロットの現場からの報告があります。それでも「安全宣言」ですか。このごろ安易な「安全宣言」が目立ちますね、桑原々々。
(古川 薫)