名誉館長のつぶや記
名誉館長のつぶや記108 映画の題名
つぶや記 108
映画の題名
『戦火の馬』というスピルバーグ監督の映画を観ました。久しぶりに映画を観ながら泣きました。原題はWAR HORSE、直訳すれば、「戦争の馬」です。
軍馬なら MILITARY HORSE ですが、それではちょっとニュアンスが違う。やはり微妙なところで、バランスをとったよい題をつけたものだとカンシンしました。
映画の原題をいろいろと細工するのは、日本人お得意のネーミング技術でした。傑作はフランス映画の『望郷』です。原題はジャン・ギャバン演ずる主人公の名前そのもの「ペ・ペ・ル・モコ」なのです。当時の日本人の好みからいったらとてもそれで我慢できるものではなかったでしょう。『望郷』の命名は好評で「なんといっても題名がよかった。背景がよかった。そして話がよかった」(猪俣勝人氏)といった称賛をあびたのでした。
『望郷』は戦前のことですが、戦後でも場所の名をとった原題『ウォータールー橋』は、日本人好みに『哀愁』となってしまいました。これを真似た『君の名は』に、もし原題があるとすれば『数寄屋橋』ですから、これではどうもメロドラマになりません。やはり日本人社会にふさわしいネーミングはあるということでしょう。
しかし最近は外国映画も原題を尊重するようになり、『ライフ・イズ・ビューティフル』『デルス・ウザーラ』などもさほど気にならなくなりました。こんどの『戦火の馬』は、戦争を戦火と置き換えただけで、バランスがとれたと思ったのです。
(古川薫)