名誉館長のつぶや記

名誉館長のつぶや記10 記録保持者

つぶや記 10
記録保持者

   わが国最初の女優にして映画監督という田中絹代の経歴は永遠に動かぬ記録です。いきなり私事にわたり恐縮ですが、わたくしのささやかな記録といえば、直木賞受賞の最多候補回数、さらに最年長受賞のふたつで、これはむろん競うといった類のことではありません。それについて先日、朝日新聞の朝刊に次のような記事がでていました。
   「直木賞を主催する日本文学振興会は21日までに、同賞の最年長賞者の記録を故・星川清司さんの68歳に改めた。星川さんが生前1926年生まれと公表していた生年が実は21年であったことを、遺族に確認したという。これまでのランキングでは古川薫さんの65歳での受賞が1位とされ、星川さんは史上4番目の年長受賞とされていた。」
   翌日、NHKのニュースでもこの話が取り上げられるとは、まことに恐れ入ったことであります。同じ日の新聞に、ナチスのためオリンピックに出場できず、記録を抹消された陸上競技の女性選手の記録が74年ぶりに復活記録されたという記事がでていました。
   わたくしのばあい記録改更の感想をたずねられ、「だれかこのあまり自慢できない記録を破ってくれないかと、20年間ひそかに願っていたこと実現して、肩の荷をひとつおろした気持ち」と答えておきました。まだ最候補という荷物が残っていますが、高齢化社会が深まっているので、そのうちこのもうひとつの記録もだれか破ってくれるだろうと期待しております。                                                 
                                                                             (古川 薫)