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名誉館長のつぶや記

名誉館長のつぶや記261 風薫る6月の空

つぶや記 261
   風薫る6月の空

   わたくしたち子供のころは、6月が節句でした。旧暦を大事にする西日本は、すべてが月遅れで、女の子のお雛まつりも4月、男の子の6月5日は小学校で「端午運動会」というものが盛大に催されました。各家庭から借りだした仰山な鯉のぼりで、運動場の空を飾りました。
   6月5日は、わたくしの誕生日なんです。運動会の50メートル徒競走が苦手でした。ビリで走り込んだあと吐き気がして、そのまま校舎の裏手に行き、側溝をまたいで喘ぎました。
   この齢になっても誕生日に思い出すのは、人目を避けてカラエズキしている情けない自分の姿であります。
   わたくしの名前<薫>は、6月にちなんで親がつけてくれたのですが、好き嫌い半々なのはそのせいかもしれません。
   6月という月はしかし好きでしたね。薫風そよぐ新緑の空を泳ぐ鯉のぼりを仰ぐ絵のような風景を愛してやみませんでした。
   あれは昔のはなしです。この数十年のあいだに、自然も人情も変わりました。
   6月1日には無粋な郵便料金値上げです。そしてわが誕生日の翌日から入梅です。あれこれ愚痴っているうちに7月です。
                                                                                   (古川薫)