名誉館長のつぶや記

名誉館長のつぶや記230 18歳の選挙権

つぶや記 230
  18歳の選挙権

   参院選が近づき、にわかに18歳以上の選挙権が話題になってきました。たまたまテレビを観ていたら、防衛大学校の入校式の風景がうつっていて、みんなが口をそろえ「政治的活動に関与せず・・・・・・」という誓いの言葉を大声で言っているのが印象的でした。
   戦前の軍人勅論にも「政治に拘わらず」と、軍人が政治に関与することをきびしく戒めています。現役職業軍人の選挙権も停止されていました。
   しかるに「総帥権の独立」という特権を獲得した軍は、「軍事が政治に優先する」として横暴にふるまい、戦争に突入する昭和の悲劇を現出したことはすでに指摘されている通りです。
   わたくしは前に児玉源太郎の伝記を書くとき、彼が校長もつとめた陸軍大学校について少し調べてみたことがあります。陸大もむろん政治関与を戒めていました。
   戦後の昭和48年に刊行された『陸軍大学校』(上法快男編)には、同校を卒業した将軍たちの反省談が収録されています。その中で注目されるのは次のことです。「陸大では戦術教育に最重点がおかれ、政治教育なるものがまったく閑却されいていた」というのです。
   「政治に拘わらず」のタテマエで政治から目をそむけていたが、実際には陸大卒業生が将軍となり、政治に踏み込んで国政を壟断したのではないかという反省です。
   クラウゼビッツの『戦争論』には「戦争は政治の延長である」としています。防衛大学校では適正な政治教育をしっかりやってもらいたい。防大卒業生が防衛大臣をつとめ、国会議員となっているのです。政治オンチを送り出さないでもらいたい。将軍たちの反省に立っていうなら、そういうことです。
   同じことは18歳選挙権にもいえます。この話が本格化したころ、山口県内のある高校で模擬選挙をやったと、県議会が騒ぎたてた一幕がありましたが、単純には笑えません。
   選挙は民主主義の根幹です。政治活動に関与しないことと、政治に無関心であることの違いをはっきりさせ、「政治」をタブー視しないで、高校もしくは中学からの選挙につながる政治教育のことも論議されてよいのではないかと思われます。
                                                                              (古川 薫)