名誉館長のつぶや記
名誉館長のつぶや記195 幕引き
つぶや記 195
幕引き
「幕引き」とは、「幕を引いて芝居を終えること。転じて、事を終わりにすること」と広辞苑にあります。
毎日新聞の連載4コマ漫画・東海林さだお『アサッテ君』が今年末で終わるそうです。40余年の長期連載は最長記録です。朝刊を広げてまず第1面の大きな内外ニュースに目を通したあとは、ジャンプして社会面、それも真っ先に目をやるのは『アサッテ君』でした。
家庭やサラリーマンの職場など舞台に、さりげなく庶民生活の哀歓を描いた社会面の隅の4コマの起承転結を楽しんでいたので、休載の日の紙面は卵焼きのない駅弁のような物足りないものになりました。
それが永久になくなるというのですから、寂しさかぎりなしであります。しかし考えてみれば、過去何度か同じ思いで、新聞の連載4コマ漫画との別れを惜しんだ記憶があります。
加藤芳郎『まっぴら君』(毎日)/サトウサンペイ『フジ三太郎』(朝日)/横山隆一『フクちゃん』(朝日)/秋好馨『轟先生』(読売)/長谷川町子『サザエさん』(朝日)などがそうでした。
アメリカ人チック・ヤングの4コマ漫画『ブロンディ』というのもありました。登場人物ダグウッドの特大サンドイッチが人気を博しましたが、やはり日本の新聞になじめないのか、その後外国人のものは採用されていません。
ありふれた日常生活の挿話的な題材を拾いながら、経済、社会現象を取り入れますが、舞台はあくまでも家の台所、街の食堂、職場のデスクに反映されたかたちで微苦笑させる手法により、読者を惹きつけました。さりげない文明批評でもあるところに新聞4コマ漫画の醍醐味があります。『アサッテ君』の次に、どんな主人公が4コマの小宇宙で活躍するのかが楽しみです。
東海林さだお氏は「気がついたら40年過ぎていた」と心境をもらしています。同感。私事ですが、わたくしが山口新聞に連載していた赤トンボ特攻隊の小説『木枯し帰るところなし』も今年末で完結します。7月から連載がはじまり、あっと言う間の半年が過ぎていました。
拙作『走狗』が「文学界」に掲載されてから49年が過ぎました。気がついたら卒寿です。人生の加速度原理による加齢とはこのごときものでした。光陰矢のごとし-。これも毎年のようにくり返してきた歳末幕引きの感懐であります。
(古川 薫)