名誉館長のつぶや記
名誉館長のつぶや記154 釜山での3日間
つぶや記 154
釜山での3日間
拙著『炎の塔-小説大内義弘』(文藝春秋)の韓国語翻訳が完成、5月4日、釜山市コモド・ホテルでひらかれた日韓交流晩餐会での出版記念式典に出席してきました。
大内義弘は室町時代の守護大名、大内氏25代当主で、足利幕府と対立、応永の乱で戦死した名将です。大内氏の祖は百済王族だと誇称して、日韓国交をひらいた人物としても知られています。
瑠璃光寺(山口市)の国宝五重塔は義弘の供養として建てられた大内文化を象徴する歴史記念物ですが、作品の題は炎にも見えるそれにちなんで付けました。
日韓の外交関係がこじれている折ですが、民間サイドの善隣友好にいささかの意義を持つのではないかという趣旨に賛同して出版に協力しました。
翻訳は釜山大学教授・趙正臣氏、サンジニ社(釜山市)の出版で、韓国内各書店で発売されています。ハングルづくめの本ですから、どのように訳されたのかさっぱり分かりませんが、途中何度も章句についての問い合わせがあり、訳者の誠実な人柄が感じられました。
出版は釜山の朝鮮通信使祭りに期日を合わせたので、その盛大な行列とパレードを見ることができました。パレードには下関の「馬関奇兵隊」をはじめ日本各地からも参加、釜山市民のさかんな拍手を浴びていました。
釜山市は人口300万、数十万を超える沿道の人出を見ても朝鮮通信使の歴史に寄せる韓国の人々の関心の高さがうかがえました。一衣帯水の釜山で展開される日本史とも深い関係のあるこの盛大な行事が、日本のメディアにまったく報じられないのは不思議な現象です。
釜山日報という韓国の有力地方紙は、日本語版サイトを設けて穏健な報道で呼びかけているのですが、日本のメディアがまったく応じようとしないのも不思議です。東アジアにむける視野狭窄のなかで、民間外交だけが細々と進められているのを身をもって体感しました。
(古川 薫)