名誉館長のつぶや記
名誉館長のつぶや記149 不況脱出の願い②
つぶや記 149
不況脱出の願い②
わたくしの浅い知識から要約すると、ケインズ(1883~1946)は独創的な経済理論で知られるイギリスの学者で、彼の存在がにわかに著名となったのは、アメリカで1929年に始まった恐慌のときでした。
ケインズの『雇用・利子および貨幣の一般理論』(『一般理論』と略称)が不況を説明し、その克服を指示する唯一の理論として、ルーズベルト大統領のニューディール政策生みの親となり成功したこと、さらに第二次大戦後、先進諸国で『一般理論』が実行され異常な経済成長を遂げたことで、「ケインズ経済学」は、資本主義経済のバイブルとも目されるようになりました。戦後のいわゆるケインズ主義の在り方は、財政支出の拡大によって有効需要を増大し、失業を減らし、景気の過熱時には財政支出の削減や増税で冷却、大きな変動なしに安定した経済成長をめざすというものでした。
しかし半世紀以上を経て世界は変貌し、いまケインズはインフレをまねくなどの疑問をあげられ、反省期に入っているといいます。つまりルーズベルト大統領が選んだような唯一の理論が見えない時代になっているということでしょう。
不況対策の政策提言を唯一の経済理論にもとめられないとすれば、学者ではない政治家の実践的判断によるみずからの政策を断行するしかないわけです。これまで敬して遠ざけていた日本銀行に踏み込んで行くなどの独自路線をめざす安倍ノミクスは、「不況対策としての金融政策は無効で、財政支出の拡大による有効需要の増大」を説くケインズの指示をはずれています。その両刀をにぎって剛腕をふるう安倍ノミクスを、新しい冒険的な政策とみることはできましょう。ルーズベルト大統領のニューディール政策だって、当時は冒険以外のなにものでもなかったのです。
明治維新を一気に引き寄せた高杉晋作の「功山寺挙兵」も「人をして訝らしめた」無謀の行動だったのです。突破力とはそのようなものでしょう。間もなくアベノミクスの成果がはっきりします。名宰相安倍さんの名が政治史に刻まれる日を待ちます。
(古川 薫)