名誉館長のつぶや記
名誉館長のつぶや記115 新文書
つぶや記 115
新文書
仏像などの古美術で、室町以後に製作された作品が、国宝になることは絶対にないといわれたころがあります。この世界では室町は新しい時代なのです。
刀剣類で、「新刀」というのは、慶長以後に製作されたもの。「新新刀」は江戸後期、古刀の鍛錬法による復古刀。さらに「明治新刀」は戊辰戦争時、大急ぎでつくった粗製乱造ですが、まじめに打ったものもあり、姿も古刀に似せた反りのなかなかいいものがあります。これなどは「王政復古刀」とも呼ばれて珍重されています。大事に保存してください。
ところで下関在住で、金子みすゞ研究で知られる木原豊美さんからめずらしい文書をみせてもらいました。印刷物ですが、すでに1世紀ちかい歳月を経た、まさしく史科なのでした。木原さんの祖父にあたる人が戦前、東京市に勤めておられ、そのころの印刷した文書類がたくさん遺っている。このまま焼却、または散逸させるのもどうかと引取手をさがしたが、どうも敬遠気味だそうです。その中の一部をわたくしがあずかっていますが、それは昭和6年5月の「東京市公報」なのです。その年実施され成功して世界的ニュースになった「世界一周飛行」のとき、永田東京市長が操縦士に託した、モスクワ・ベルリン・パリ・ロンドン各市長あてのメッセージが全文掲載されています。
和紙に毛筆で文字が書いてあるもの以外、まして紙に印刷したものなど見向きもしない時代は、もう終わりに近づいています。すべて電子に切り替わってしまえば、ペーパーの史科といえども疎かにはできなくなるでしょう。近代文書箱を整備して、「史科」の散逸を防ぎたいものです。
(古川 薫)