名誉館長のつぶや記
名誉館長のつぶや記101 海峡は時限爆弾
つぶや記 101
海峡は時限爆弾
下関市出身の田中絹代も藤原義江も、ふるさとを遠く離れて活躍し成功した人たちの望郷をさそうのは、美しい関門海峡の景観でした。
海峡はそんなにも美しい風物ですが、同時に二つの海洋を結ぶ運河としての現実的機能を備えています。「連洋運河」はその利害をめぐって戦場と化したことが世界史に記録されており、関門海峡とスエズ運河がそれです。
戦争の原因はいずれも運河の封鎖によるものでした。幕末の攘夷戦は、長州藩による関門海峡の封鎖を開場しようとする英・仏・蘭・米による武力行使です。スエズ戦争(1956年)エジプトによるスエズ運河封鎖に対するイギリス・フランス・イスラエル連合軍の攻撃ではじまりました。第2次中東戦争です。
話はいきなり新しくなりますが、ことし1月はじめイランの核問題をめぐる制裁措置でイラン産原油の輸入禁止が実施された場合、ホルムズ海峡を封鎖することをイラン当局がほのめかしていると報じられ、米国が「対応した行動を起こす」と言明したそうです。対応した行動とは武力行使であり、「ホルムズ戦争」の勃発を意味しているのです。
ホルムズ海峡というのは、あまり知られていませんでしたが、ペルシャ湾とアラビア海とを結ぶ海峡運河で、原油輸送の世界的大動脈ですから、この封鎖はただことではありません。日本にも影響するなどの次元どころか、おそらく核を保有するイランと米国の正面衝突となれば核戦争の危険も予想されます。
風光明媚な海峡は、核の時限爆弾をも抱えているのだという恐ろしい話、関門海峡は関わりなしと安心もしておられません。
(古川 薫)