名誉館長のつぶや記
名誉館長のつぶや記93 大河ドラマのウソ
つぶや記 93
大河ドラマのウソ
大河ドラマ『江』が終わりました。その内容に荒唐無稽なウソ話が仕組んであると、有識者間での非難ごうごうは、毎度のことです。しかし、わたくしは面白く観ました。
民放の『水戸黄門』にそんな非難が起こらないのは、娯楽作品だと承知しているからで、NHKのドラマだから、歴史の教科書のように内容が整えてあるはずだというのは誤解です。
森鷗外はそれを「歴史離れ」と「歴史其儘(そのまま)」としました。後者は史実を改竄しない(虚偽の資料を使わない)という基本的ルールを踏まえる歴史小説の立場です。さればNHKの大河ドラマは「歴史其儘」であるかというと、なかなか微妙であります。鷗外の史伝類にも虚構の部分があるわけで、大筋において史実が担保されていれば、史劇として許容できると、わたくしは思っています。
準大河ドラマというのでしょうか。NHKの『坂の上の雲』を観ていますが、かなりの粉飾がある。それもよいではないかと面白く観ていたのですが、先日の旅順攻撃の回では、決して許されない史実の改竄があるのに驚きました。28サンチ砲を「送るにおよばず」と第3軍が大本営に返電したのは、文言の捏造であることが立証されているにもかかわらず、これが採用されていました。いわゆる「乃木愚将説」の根底に関わるもので、原作の故意をうかがわせる問題の箇所をそのままにしているのは、それこそが「歴史其儘」に反する作劇者の芸術的良心の欠如といわざるを得ません。いろいろ残念なこともありますが、おしなべて大河ドラマは面白くあります。
(古川 薫)