名誉館長のつぶや記
名誉館長のつぶや記88 ヴァイオリン協奏曲
つぶや記 88
ヴァイオリン協奏曲
先日、下関の映画劇場シアター・ゼロで『オーケストラ!』という作品を見ました。パンフレットを紛失したので、詳細なデータを紹介できませんが、出演者はロシア人です。ロシア映画かというと、一味も二味も違うのですね。
どうやらブレジネフに潰されたらしいボリショイ管弦楽団のOBが数十年後、パリで再編成、問題の「チャイコフスキイ・ヴァイオリン協奏曲」を演奏し大成功をおさめたという成功譚ですが、それだけでは面白くない。そのヴァイオリンを弾いた女性は、ブレジネフを批判して追放され、シベリアの流刑地で死んだユダヤ人女性ヴァイオリニストの娘さんだったことがわかる。ひそかにフランス人として育てられ、父母は交通事故で死んだと教えられていた本人が、その演奏の過程で真相を知るというストーリーです。
久しぶりに感動した映画でしたが、これがアカデミー賞の対象にならなかったことが不思議でなりませんでした。以前、『おくり人』がアカデミー賞で脚光をあびる直前、3人の観客しかいないシアター・ゼロで観たことがあったので、こんどもそんな結果となるのではないかと期待しましたが、それっきりになってしまいました。
その後、我が家の書庫を探したところ、危うく廃棄処分になりかけていた同曲名のLP盤がありました。しかもハイフェッツのビクター赤盤です。なけなしの小遣いをはたいて買った思い出の逸品、少し針音は気になりますが、映画の感動を再現してくれました。最近この曲にこだわっているのですが、10月末の毎日新聞で第80回日本音楽コンクール・ヴァイオリンの部で優勝した東京芸大3年の藤江扶紀さんが弾いたのがこの曲だと知って、また聴きました。むろんビクターLP赤盤で。
(古川 薫)