名誉館長のつぶや記
名誉館長のつぶや記81 絹代の赤いハイヒール
つぶや記 81
絹代の赤いハイヒール
先日、俳誌「其桃」(下関市・中村石秋主宰)の田中絹代ぶんか館吟行がありました。ぶんか館3階休憩室に短冊が展示してありますが、送ってもらった句稿の中から、わたくしの好きな作品を紹介させていただきます。
渋団扇赤いグラスを二つ置き 中村石秋
梅雨明けを待たるる絹代の赤い靴 福島 泉
大女優の光陰たたむ扇子かな 川上恵子
赤い靴涼しき顔の絹代かな 井上灯子
絹代愛用の団扇昭和をあふぎけり 池田尚文
青嵐や絹代艶然と銀熊賞 金谷初枝
江戸切子朱盃に透かす夏座敷 坂本悦子
館より出でて夏帽目深にす 角田節子
薫風や琵琶ひく絹代おさげ髪 前田冨美
七月や絹代の赤いハイヒール 田中美智子
絹代館絹代ファンの蛇もきて 山下清子
その後、共同通信社大阪支社文化部記者の上野敦さんが、田中絹代ぶんか館を取材にこられました。映画俳優個人にかかわる記念館は、国内に数ヶ所しかないそうです。それぞれの特色を比べることになるのでしょうが、記事はこの近くでは山口新聞に配信されるはずです。
「この館でいちばん見せたいものはなんですか」と上野記者がわたくしに尋ねられました。見せたい遺品は山ほどあります。わたくしはとっさに絹代のハイヒールを挙げました。「其桃」吟行の3人が絹代のハイヒールを詠んでおられます。
さて大女優田中絹代の偉大な業績を支えた、てのひらに載るほどの21センチの赤い靴が、ぶんか館の展示ケースの一隅から無言に語る人間の命のかたちを、新聞はどのように紹介してくださるのか。楽しみです。
(古川 薫)