名誉館長のつぶや記

名誉館長のつぶや記44 今年こそは

つぶや記 44
  今年こそは

   あけましておめでとうございます。
   「いつも新年を迎えるたびに、今年こそはと決意するのだが・・・・」
   いつか三島由紀夫が、そんなことを書いていました。「あの人でも僕らと同じようなことを考えるのだなあ」と思ったのでした。そして彼が例のあの行動を敢行したとき、粛然としてそれを思い出したのを憶えています。われわれ平凡人は、あい変わらず同じことを考えながら、年をかさねてきたわけですが、このごろ新年にあたり頭の中をよぎるのは、「今年こそは、何か蒼ざめるようなことが起きるのではないか」という漠然とした不安です。不幸な時代となりました。
   韓国で「防空演習」なるものが実施されている風景をテレビで見たのは昨年末ですが、空襲警報のサイレンが鳴り響くなかを、地下鉄に駆け込む今の韓国の人々の姿を見て、60数年前の恐怖がよみがえりました。
日常的な防空演習のあげくの果てに、ほぼ日本全土が瓦礫の町となりました。
   ごく最近、ある大企業の人から聞いたのですが、わが国でもぼつぼつ核シェルターが新しいビジネスとして浮かび上がり、すでに始動しているそうです。
   維新史資料『防長回天史』の元治元年(1864)の項に「元旦武装の賀式」というのがあります。新年の賀式に藩主はじめ家臣たちが武装して集まったと緊張した様子を伝えています。妙な連想に走ってしまいましたが、蒼ざめるような変事のない平穏な1年でありますように、あっと驚くめでたいことがありますように、ひたすらそれを2011年頭に祈るばかりです。                   
                                                                           (古川 薫)