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つぶや記 192
秋の貴婦人

   下関市長府の日頼寺の門前に樹齢100年は超えると思われる銀杏の木がそびえていました。毎年秋になると真っ黄色の葉で全身をつつんだ貴婦人のような姿を、楽しませてもらっていました。
   「秋の貴婦人」とひそかに命名して、お寺の前を通るたびに見上げていたのです。わたくしはバイクに乗っていたころ、ちょうどカーブの坂道になっている日頼寺の角で3度ばかりも転びました。秋の貴婦人に見とれてのことです。
   1度はむこうから5、6人の中学生が自転車で道路いっぱいに広がり、フルスピードで坂道を下ってきたので、それを避けようと右に急ハンドルを切り転倒したのでした。
   中学生たちは知らぬ顔で行ってしまいます。どこかのオジサンが、駆け寄ってきて「おい大丈夫か」と声をかけてくれ、「いまごろのガキは何を考えちょるのかのう」と、わたくしの代わりにつぶやいてくれました。そのときも不思議にケガをしなかったのは、仏の化身の銀杏の木が守って下さったのかもしれません。
   銀杏は、ある日、ほとんど一瞬の間に葉を振るい落としてしまいます。「貴婦人は脱ぎっぷりもええなあ」などと独りつぶやくのも楽しみだったのですが、一昨年でしたか日頼寺の銀杏がコツゼンと消えました。枯れたのでしょう。お名残り惜しいことであります。で、わたくしはバイクの免許証を返納しました。
   11月8日、東行庵での奇兵隊並びに諸隊士合同慰霊祭に参列して、久しぶりに境内を散歩しました。紅葉はもう少しというところ。代わりに山茶花の林で真っ盛りの白い花をながめてきました。帰途、日頼寺の前を通り、やはり貴婦人がいない寂しさを味わいました。銀杏は高貴な樹木で一般家庭の庭に植えたら、人間は位負けするといわれ、身近なところではお目にかかれません。我が家の石蕗の花で黄色を補うことにしました。
                                                                               (古川 薫)

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