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つぶや記 164
  卑怯者の暴力

   わたくしの新刊を紹介させてください。『新釈「武道初心集」』という本です。PHP研究所から出版されました。
もう50年ばかり前になりますが、小倉の教養堂という古書店で『武道初心集』の写本をみつけました。これは掘出し物でした。むろんただちに通読できるしろものではありませんので、そのままずっと自宅のホコリをかぶっていたのを、仕事の一段落を機に取り組んだ新訳です。
   江戸初期に成立した大道寺友山の『武道初心集』は、原本と松代本(松代藩で改訂したもの)の二種があり、わたくしが持っているのは、江戸で上梓された木版刷を、小笠原礼法の宗家であった小倉藩のサムライが転写したものでしょう。読み古されて、表紙などはすり減っていますが、流麗な行書体で書かれた謡本のような写本です。
   簡単に言うと「武士道といふは死ぬ事と見付けたり」という『葉隠』の教えと、基本的には通じていますが、『武道初心集』のほうはサラリーマンに似た宮仕えのサムライ心得といったものです。内容には現代とあまり変わらない事項が見られます。たとえば最近のメディアが伝えている、ある大学柔道部の暴力事件を連想させる教訓は、『武道初心集』第32条にあります。現代語で要約します。
「自分に手向かいできぬ相手とみて、理不尽の暴力をふるうなどは、雄々しき武士のやらないことだ。好んでそれをするのは軽蔑すべき臆病者である」
   主として自分の妻を殴る武士への訓戒で、その時代でもドメスティック・バイオレンスが横行したことを物語っていますが、無抵抗のものへのイジメを卑怯な行為とみるのはいつの世も変わりません。
   わが国の伝統的武芸たる柔道界で、「手向かいできぬ相手とみて」理不尽の行為におよぶ蛮行がはびこる現状を、地下の大道寺友山は嘆いていることでしょう。
                                                                              (古川 薫)

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