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つぶや記 156
  故旧忘れ得べき

   ―文選、古詩十九首「去る者は日に以て疎し、生ける者は日に以て親し」①死んだ人は月日のたつに従って次第に忘れるものである。②親しかった人でも遠ざかると次第にその人への情が薄れる。―
   広辞苑がそのように詳しく解説しているのを、しみじみ噛みしめました。感懐が新しいうちに、ホンネをつぶやいておきます。つまり「次第に」ではなく「ただちに」疎くなることもあるのだという悲しみも味わったのです。
   『赤江瀑「美の世界」展』は、盛会のうちに幕を閉じ、およそ1500人の人がやってきて、赤江美学への名残りを惜しんでおられました。芳名簿を見ると、9割方が下関市民、あとは県内、九州各地からで、東京からは現時点では5
人、赤江さんがあれほど愛してやまなかった京都からは2人なのが残念でした。とくに東京には赤江ファンともいうべき作家、編集者、放送関係者がおよそ100人は下らないはずですから、本州最果ての下関といえどかなりの人がきてくれるだろうと予想していたのですが、大変意外です。
   この展観を観て、ほとんどは絶版となっている著書のなかから追悼本のひとつも考えてもらえたらというひそかな願いは消えてしまいました。「死んだ人にお金はかけられない」ともらした編集者がいたらしいと聞くと、「生き馬の目を抜くお江戸」とはそんなものでおますかいなと怒りを走らせもしたのですが、それは東京だけでなく、こんどの赤江展への協力をはっきり拒絶してきたむきもおありでしたから、せちがらい世のなかとはそんなものかと肩を落とすしかありません。しかしふるさと人の心やさしさ、「故旧忘れ得べき」をあらためて痛感するこの日ごろではありました。                                                                                                               (古川 薫)

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