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つぶや記 140
  生き残りの志士

   近刊の拙著『志士の風雪-品川弥二郎の風雪』について、少し喋らせていただきます。梅光学院大学の佐藤泰正先生から電話があり、「長州関係の人物を書くのは、あなただけになりましたね」と言われました。称揚して下さっているのですが、世間ではどう受けとめられているのか、長州の志士は、もう食傷気味だという人がいるかもしれません。吉田松陰・高杉晋作・山県有朋といった有名人ばかりが、明治維新をやりとげたのではないのです。まして坂本龍馬が一人で歴史を旋回させたのでもありません。
   その群れの中で重要な役割を果たしながら、著名な人物のかげに隠れた人がいることを、みんな忘れてしまっています。一将功成って万骨枯るとは、まさに至言であります。その万骨を掘り起こす仕事は、地方に腰をおろして定点観測をしてきたわたくしのような作家の使命だと思っています。
   ことしを国際協同組合年として、国連がとくに協同組合の存在を強調するのは、歴史の記念行事としてではなく、いまや深化しつつある格差社会現象への警鐘なのです。
   産業革命の被害者である民衆から立ち上がったヨーロッパ協同組合の日本移植に奮闘した品川弥二郎を、あらためて顕彰する意味はそこにあるわけで、協同組合という一見非文学的世界の領域に踏み込むところに、わたくしの役割もあろうかと考えました。
   また決して非文学の世界ではありませんでした。幕末、討幕戦線ではたらいた志士たちは、論功行賞され新政府に迎えられて「官員」という別人格に変身していきます。しかし品川弥二郎だけは、あくまでも志士でありつづけました。そこに人間の問題、文学の課題を発見し、新政府での地位を失っていく最後の品川弥二郎の「蛮行」に共感しつつ筆を進める作業に、わたくしは作家としての悦びを覚えたのだと自賛しているしだいです。
                                                                              (古川 薫)

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