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つぶや記 127
  原爆科学者の祝杯

   8月6日は広島、9日は長崎の原爆記念日。いや、原爆記念日などと、この大量殺人兵器が投下されたことを風化させるような軽薄な言い方はやめましょう。しかし、ロンドン五輪たけなわで、日本人選手のだれが金メダルをとれたとか、落としたとかで大騒ぎする平和な日々と、67年前、悲惨な戦争犯罪が実行さた日が重なるのは、いかにも皮肉なことであります。
実はちょうどそのころ、田中絹代ぶんか館では、市内の小学3年生から6年生まで20人ばかりが、夏休み作文教室で、原稿用紙に思いを書きつけていました。真剣に鉛筆をにぎる光景は、すがすがしい夏の風物詩にも見えます。
   提出された原稿を読みました。オリンピックのことに触れたものが1つもなかったのがまず印象的でした。そして、怖い夢について書いた作品のなかに広島・長崎の原爆について語ったのがありました。「原爆は怖いが、それを頭に落とされた人たちがかわいそう」と書いているのは、今の子どもたちの少し違った視点が感じられました。自己の恐怖心よりも他者の運命に思いを繋いでいます。
   『ぼくは科学者になりたい』と夢を語ったのがありました。ロボットなども「殺傷能力のないもの」を作りたいというのが、とくに注目されるところで、うれしくなります。
   ところで、広島への原爆投下が成功した日、アメリカではそれを作った科学者たちが集まって、祝賀パーティーをひらいたそうです。瞬時に数万人の人間が焼き殺されたことを承知の上で、バンザイをさけぶ科学というもののおぞましさを物語る現代の怪談です。『ぼくは科学者になりたい』という作文を書いた少年は、そんな科学者にはならないことを確信します。
   わたくしは告白します。「マッチ箱1つくらいの大きさで軍艦1隻を撃沈できるのが原爆だ」という新聞記事を読んで、「ワシントン市に落としてやったらよい」と、友達と話しあったことがあります。それが戦争の狂気というものでしょう。原爆を作り、それを落とした人たちばかりを責められない。人類の罪であることを、子どもたちが告発する時代がやってきました。

                                                                            (古川 薫)

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