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つぶや記 38
  世間とはそんなもの

   前回、川棚温泉と山頭火のことについてお話し、「世間とはそんなもの」などと言い捨てた感じになりましたので、すこしばかりフォローします。コペンハーゲンに行って目につくのは、ランド・マークになっている「人魚姫」です。
   作者のアンデルセンはデンマークのオーデンセ島の貧しい靴屋の子に生まれ、教育も受けられなかったので、故郷の人々は軽蔑して目もくれなかったそうです。
   無一文で首都コペンハーゲンに出た彼の才能を認めた王立劇場の支配人コリンの援助で、外国に旅立ちます。ドイツ・フランス・スイスを経てイタリアに遊ぶ。イタリアの風物に感激して書いたのが、逆境に生い立った青年の詩と愛とさすらいの物語『即興詩人』です。これには作者の全体験が投げ込まれているといわれています。この作品で一躍世界に知られる存在となりますが、彼の本領は童話であり『人魚姫』や『マッチ売りの少女』はじめとする数々の名作を後世に遺しました。そのほとんどは故郷を離れた異郷の空の下で書かれたのです。
   「旅は私の学校」「旅することは生きること」とアンデルセンは言っています。漂白の人生を宿命とするような山頭火の生き方にも、それに重なりますが、故郷を喪失したこの人々が、あるいは彼らを容れなかった「故郷」で、今さらのように慕われ、誇らしげに宣伝されている例が古今東西に転がっています。田中絹代にしても、女優になったころは、映画というものへの偏見から、郷里の人々は冷たい目を投げていたのですから。やはり「世間とはそんなもの」というほかありませんねえ。     
                                                                              (古川 薫)

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