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つぶや記 32
  栗原小巻さん来館

   9月23日、栗原小巻さんが田中絹代ぶんか館に来られました。田中絹代が最後に出演した名作『サンダカン八番娼館・望郷』(ベルリン国際映画祭・最優秀女優賞)の相手役ですから、特別の感慨がありました。絹代はこの作品で受賞2年後に、華麗な人生の幕を閉じるように他界しました。拙著『花も嵐もー女優田中絹代の生涯』では、こんなふうに書いています。
   ーー圭子からもらったタオルを抱きしめ、おサキが手放しで号泣する情景は映画『サンダカン八番娼館・望郷』の白眉というべきシーンである。異郷の娼婦として、人の世の修羅場をくぐり抜けてきた老婆が、おそらくは生まれてはじめて触れた人間の真情の前で、無表情につらぬいてきた半生の姿勢を一転して、さめざめと泣く姿は感動的で、この作品全体の劇感を、いやが上にも高める出色の場面だった。
   「涙、滂沱として」というのは常套句
 ですが、わたくしはこの映画を見るたびに、涙が噴き出るのを抑えることができません。栗原小巻さんにその
ことをお話ししました。
   「あのカットを撮るとき、途中、次のカットに移るまで、しばらく間があるでしょう。田中さんも、私も目に涙をためたまま、じっと待っておりましたのよ」とは、貴重な回顧談でした。芝居の涙ではなかったのですね。
   レポーター圭子役の栗原小巻さんは20歳、絹代さん64歳、迫真の演技をスクリーンに刻みつけてから春秋36年、しかしあのときの小巻さんの初々しさは、今も少しも失われてはいません。「海ホール」での『欲望という名の電車』を観せてもらいましたが、奔放そして新鮮な体臭を発するステラの存在感が、舞台にあふれていました。絹代さんも市民劇場の客席から目を凝らしていたはずです。
                                                                           (古川 薫)

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