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つぶや記 279
  樹液の環流を聴く

   熊本県下の小さな温泉旅館に1ヶ月こもって『高杉晋作』(新潮文庫)を書いたときのことです。土地の森林組合の組合長から、いろいろ面白い話を聴きました。
   「わしら樵(きこり)は、クヌギの樹液が環流する音を聴きながら、シイタケを栽培しとるんじゃ」とおっしゃる。
   「樹液の環流ってどんな音ですか。わたくしたちも聴けますか」
  好奇心に駆られて、思わずわたくしは言いました。
   「それはダメじゃな」
  たちまち一笑されました。
  樹液とは「①樹木の中に含まれる液。②樹木の皮などから分泌する液。ゴムの木の乳液など」と広辞苑にあります。樹木を人体だとすれば血液に当たるのが樹液ということになります。
   もうひとつ広辞苑から引きましょう。「しいたけ【椎茸・香蕈】①ヒラタケ科の食用きのこ。シイ・カシ・クリ・クヌギなどの広葉樹の枯れ木中に生じ、傘の外面は紫褐色または黒褐色で、裏面と柄とは白い。生のものは淡味、干したものは香りが高い。各地の林下に菌糸を植えた榾(ほたぎ)を並べて栽培する」
   「毎朝、クヌギの樹液の環流する音を聴いているうち、その音がピタリと止むことがある。その日のうちに伐採したのを並べて枯らしたのを榾にして菌糸を打ちこむ。これが上等の椎茸を作る秘訣じゃ」
   樵氏は鼻高々と教えてくれました。今はどうなっていますか。熊本県から巨大な瓶に干し椎茸を詰め込んだ大相撲の商品を優勝力士が抱きかかえる光景を見たことがあります。熊本県の名産品はそのようにして栽培されるのだと納得しました。以来、わたくしは一つ覚えに「樹液の環流を聴く樵のようでありたい」と、色紙などに書いています。「英雄とは大衆の望みを察知し、行動し、実現した者のことだ」とある偉人が言ったそうです。高杉晋作も樹液の環流を聴ける男でした。さて今後、樹液の環流を聴ける政治家が現れるでしょうか。
                                                                             (古川 薫)
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※開館当初から続いた「名誉館長のつぶや記」ですが、今回をもちまして最終回とさせていただきます。
長らくのご愛読、誠にありがとうございました。

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