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つぶや記 262
  命がけの嘘

   わたくしなどへたな歴史小説を書いていますと時々「どこからが嘘ですか」と訊かれることがあります。史料と史料の継ぎ目に空白があいてこまったとき <ありうべき嘘> を書きます。
   そんなときは事実の叙述よりウン十倍かの力を入れて「嘘」を書きます。だから継ぎ目が分からなくなるのだと思います。小説に限らず、にんげん嘘を言うときは顔も大真面目な表情になり、正直な人ほど見破られてしまいます。嘘をつくとき、逆に平静な態度をとる嘘つきの名人も世の中にたくさんいますが、いかにも平静な態度をとっても逆に馬脚を現してしまいます。小説の嘘では、そのいずれでもないところを潜りぬけないと継ぎ目が目立ってきます。
   この間からテレビで何人か、嘘をついているらしい顔を見ました。人を傷つける嘘もありますが、人を救う嘘があっていいでしょう。人間社会には、ある意味で潤滑油になる嘘もかなりの割合で存在していることも事実です。
   さて嘘と聞いて思い出すのは、命がけの高貴な嘘もあるということ。これは映画の世界の話です。『ライフ イズ ビューティフル』はイタリアのムッソリーニによるファシズム政権下を舞台にした話。ロベルト・ベニーニ作品ですから、ご存知の方は多いでしょう。収容所に入れられて死んだイタリア系ユダヤ人の父と子の話です。
   その父親は一緒に収容所送りとなった幼い子供に「これはゲームだよ」と嘘を言い、収容所の生活を楽しくしてやり、ついに父親は銃殺されますが、それを知らない子供は収容所に入ってきた占領軍の戦車を、父が教えてくれたゲームの結末だと思い込み喜んでいる・・・・・・。この命がけの嘘は事実譚かどうかわかりませんが、1999年カンヌ映画祭でグランプリを受賞しました。
                                                                              (古川 薫)

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