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つぶや記 248
   戦利品奪還の妙手

   70年のあいだ凍結していた北方領土返還の問題を一気にかたづけようとした安倍総理の覇気は称賛に値しますが、簡単にロシアが応ずるわけがないことも覚悟の上での会談だったに違いありません。
   ここでわたくしが思い出すのは、フランスからの長州砲返還問題です。1966年の春、わたくしはパリのアンバリード軍事博物館で、幕末の長州砲3門を発見しました。
  関門海峡沿岸に装備した150門の青銅砲は、攘夷戦敗北の結果戦利品として英仏蘭米4カ国に鹵獲されました。明治初年、岩倉使節団がパリでその一部を発見したことは分かっていたのですが、敗戦の記念物ですから、日本では話題にもならず、第二次大戦後も同様でした。
   明治100年(昭和43年)を迎えて、維新史への関心が高まり、わたくしがパリで長州砲を発見したことも、当時ではようやくニュースになりました。3門あるのだから1門ぐらい返してもらえるだろうとだれもが考えたのです。すぐに長州砲返還運動がはじまりましたが、フランス外務省からは「戦利品の返還は、国会の議決が必要だ。絶対できない」という返事でした。「戦利品を一々返していたらルーブルは空っぽになる」とフランス人が笑ったそうです。
   あきらめていたところ安倍晋太郎氏が外務大臣に就任、ミッテラン大統領と会談されたとき、余談として「長州砲返還」の再考を持ち出されました。返事はやはり「ノン」でしたが、「なにかよい知恵はないか」という含みのある余韻で終わりました。
   そこで日本側が考案したのが、相互貸与の方法です。長府藩主着用の甲冑と長州砲を互いに永久貸与の名目で交換することをフランス当局が賛成、1984年(昭和59年)、長州砲返還は事実上実現しました。現在では下関市立歴史博物館に展示してあります。
   北方領土返還問題は、先日プーチン大統領が来日のとき、安倍首相提案の「特別の制度」「共同経済活動」ということで、細目は別として実質的には解決したと言えないでしょうか。領土も戦利品も戦勝国がこれを返還しないことは古今変わらぬ万国の約束事で、無理押しすれば70年はおろか100年かけても不毛の交渉となります。
   鎧一着でフランス軍事博物館秘蔵の長州砲を取り返した安倍晋太郎外相の秘書官を務めておられた若き日の安倍晋三総理が、奇しくもそのときの妙案ひねり出しに一役買われたことは有名です。こんども絶妙の外交手腕を見せていただけると期待しております。
                                                                               (古川 薫)

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